馬耳山登山 

 馬耳山は鎮安の南西3kmのところにある各一枚岩の双耳峰である。東の直立した耳が雄馬耳山で標高678m、西のちょっと寝たような耳が雌馬耳山で標高は685mである。中生代白亜紀に隆起したれき岩が浸食によってこのような特異な形の山ができたとされる。入手した3つの地図には両山ともに登山道と時間が記入してあって紛らわしいが、実際に登れるのは雌馬耳山の方だけである。雄馬耳山は人工登攀でしか登ることはできないのである。登山道は両山の間にいったん登り、そこから雌馬耳山にとりつく形で作られている。両山の間から下ると、向こうにある巨大な石塔で有名な塔寺へ降りることができる。
 もう夕方なので、もしかすると登山口が閉まるかもしれない。16時10分、バスを降りると急いで土産物屋の間にある階段を上りだす。車道に出て、雄馬耳峰を正面に見ながら右の写真の道をしばらく上ると、登山ゲートに着いた。英語で対応されて、2000wでチケットを買って登る。
 左写真ののように、手すりが両側についた幅6mもある広い石段が、両峰の鞍部に向けてまっすぐ上に伸びており、登山道というより参道に近い。夕方とはいえ、登山?客は多い。しばらく登って、鞍部の中程に石馬の水場があり、多くの人がのどを潤している。途中のベンチには次々と石を乗せていったため座れない状態になっているものもある。
16時29分鞍部に到着した。鞍部には藤棚があり、ここからまっすぐ下ると塔寺、右は雌馬耳峰であろう。しかし、左へ登る道もある。雄馬耳峰への登山道があるのだろうか。ほとんど垂直な岸壁だが、中央の大きな割れ目に向かって直登する道が見える。そのときは、もしかすると雄峰にも登れるのではないかと思っていたが、確実でより標高の高い雌峰へ向かう。
 少し行くと写真のような道標がある。雌馬耳峰へは、上に0.5kmとあるが、そちらの方への道は不確かだ。それに対してクァンデ峰への、そのまま進む方向は道がよいので、うっかりそのまま行ってはいけない。クァンデ峰までは6kmと書いてあるので違うと判断し、上に登らなければならない。しばらく登って道が不確かな理由がわかった。この登山道は雌峰の横っ腹の土つきに生えた樹林帯にあるのだが、傾斜が急で下の岩盤が足場として最適なれき岩であるため、どこを登っても直登できる状態になっているのだ。
 写真のようにときおりロープも張ってあって、ここが登山道であることがわかる。この時間では、登る人より下る人の方が多いのだが、いろんなところから降るように下山者が現れる。韓国の山は登り優先というルールはないので、上をよく注意して登ろう。親子連れが多いが、この急坂を予測できなかったのか、サンダル履きで登る輩も多い。ミニスカートで登っている女もロープをつかみ、懸命に登っている。ぐんぐん高度が上がり、対面する雄峰の岸壁が眼前に迫るが、登っている人は見えない。
 右写真のように雄峰の山頂部がよく見えるようになると、山頂は近い。やがて、あまり見晴らしのきかない樹林帯にはいると、急に傾斜が緩やかになる。もうそこは山頂部である。
 ちょっと歩くとうず高く積まれたケルンが見えてきた。17時ジャスト、登頂。人の丈より高いケルンの向こうに雌馬耳峰の石標が立っている。周りもミズナラや松が茂っていて、ちょっとがっかりしたが、少し奥に行くと、木々はなくなり、岩盤の上で視界が開ける。ここで親子連れに写真を撮ってくれとカメラを渡される。なんと私が学生時代、初めて買ったのと同じのミノルタXではないか。今回は「ハナ、トゥル、セ」と気持ちよく写真を撮ってあげた。西面は草一つない垂直の大絶壁になっており、すざまじい高度感である。警告板も立っているが、うっかり足を滑らすと、数百m落下することになる。
 17時10分、山頂での景色にも堪能したので、雄馬耳峰を正面に見ながら雌馬耳峰を下る。やはり雄峰には人影はない。当然、下りの方が難しいわけだが、人も少なくなってきたので一気に下ることができた。鞍部まで戻り、さて、これからどうしようかと考える。今日はいろいろ歩いて結構疲れているので、このまま塔寺へ下るのが妥当なのだが、どうしても雄峰への登り道が気になるのである。結局登ってみることにする。
 垂直に切り立った雄峰のくぼみは、左の写真のような急な坂になっている。そこをぐんぐん登っていく。やがて、洞窟のような者が見えてきた。私の前を行く人も見えなくなったから、洞窟の中を山頂に登る登山道でもあるのだろうか。と、胸をわくわくさせながら登り切った。そこには確かに洞窟(割れ目のようなもの)があったが、残念ながら登山道ではなかったのである。
 では、洞窟に何があるのかというと、なんとわき水?があるのである。結構水量もあるが、写真のように柵があって、水面に手は届かない。そのいかにもありがたい水は、柄の長ーいステンレスのひしゃくが2つあって、それですくって飲むのだ。アジュマが引き上げた後、私もいただいたが、特別な味がするわけでもなかった。この山の状態から考えると、わき水というより雨水が岩の割れ目を伝って、溜まったもののような気がする。その洞窟の上はクーロアールになっており、ここからなら少し上まで登れば、山頂近くまで直登できそうな気もする。さて、今日の登山は終わりだ。塔寺まで下ろう。
   2003 08/15