依頼と出国日の変更

 竜頭公園から階段を下りているところで、ふと50歳くらいの一人のアジョシ(朴氏)に呼び止められた。発音から韓国人だと分かったが、一般的に日本語で話しかけてくるなれなれしい現地の人には要注意だ。何かの勧誘か、販売かいぶかしく思ったが、彼は一枚の紙を見せて言った。「日本のこの本を私は手に入れたい。」見ると、「日本人の精神構造」「日本人の...」という本だ。それも全て講談社文庫である。これなら簡単に手にはいるだろうと思った。そして、何よりその向学心に感服して話を聞くことにした。おそらく彼は、何日もここで話にのってくれそうな日本人をさがしていたのだろう。これこそ巡り合わせ、いい歳をして娯楽を追い求める日本の団塊の世代にうんざりしていた私にとって、このような生涯教育の見本のような人には...。儒教の根強いこの韓国で、年下の私に率直にお願いするその姿勢こそは、先輩として逆に尊敬の念が生まれるというものだ。
 彼は新聞紙を階段に敷き、私を座らせると、いろいろと世間話をした。釜山も不景気だと言うこと。それに対して、タワーから見た多くの建築現場、アジア大会直前の景気についても尋ねてみた。しかし、建築関係の仕事をしているという朴さんに言わすと、それも表面的なことらしい。漁業も日本の漁師との摩擦があって、今はやりにくいそうだ。利のみを追求する韓国船の密漁に苦しめられる日本漁場のイメージがあったが、視点を変えるとそういうもんなんだなと考えた。ただ、引き受けた私に「約束できるか」を強調して連発するのには、いささか辟易だ。それが韓国流であることは、私にも薄々分かる。お互いの名前と住所、私のメールアドレス(朴さんはPCは使わないが、子どもを通じて電子メールをやりとり可能らしい。)を交換して彼と別れた。ちなみに韓国では、今でこそほとんどがハングル表記だが、住所にも名前にも漢字があることも朴さんは強調していた。

 国際フェリーターミナルに行くと、切符売り場で、その日の出発チケットに交換してもらう。同時に1200wを求められた。「変更手数料ですね。」とぼそっと言った私の言葉に、おねえさんは、「いいえ、港使用料です。」とビシリと返された。
 さて、この後どこに行くかだが、本当は海雲台を考えていたが、出発前には本屋で書籍を買いたいので、今からではゆっくりと行けそうな時間的余裕もない。そこで、西面に行って見ようと思った。西面は、韓国の第二の中心地だからだ。
地下鉄で、西面へ向かう。西面は観光スポットこそ乏しいが、南北と東西に走る釜山にある2つの地下鉄の交差する交通の要所である。中央洞から地下鉄で西面に向かう。「まるごと釜山」で見る限り、映画館や食堂街もある駅南東がおもしろそうだ。


   2002' 8/29