光復路からチャガルチ市場を歩く

 腹が空いたので、本屋街から出ると、角にあったジョンの屋台による。ここは繁華街から離れた人通りの少ない通りである。アジュマというに余りにも歳を取った、小さな婆さんがやっている。いろいろな揚げ物も作っているみたいだったが、直径20cmほどのパジョンを指さして「イゴジュセヨ」と注文した。鉄板で焼くので、お好み焼きみたいだが、千切りの野菜なんか入っていてかき揚げみたいでもある。どうやって食べるのかを身振りでたずねると、しわくちゃの顔に優しい笑みを浮かべ、タレにつけて食べる格好をしてくれた。そろそろ空も暗くなってきた。
 宝水交差点を南下し、光復路に向かう。釜山一の屋台街らしく広い道路の中央は屋台がずらっと並ぶ。もっといろいろと食べたいが、その多くは海産物である。うまい魚介類は食べ慣れているので、今回はパスだ。他にはキムパブとおでん、マンドゥ、日本でおなじみのファーストフードなどばかりである。スンデとか豚足とかここでしか食べられないものをさがしていたのだが...。
 ということで見つけたのが、何か分厚いお好み焼き風の物である。そこで一個買ってみた。しかし、愛想の良かったアジュマは、私が日本人と思ったとたんあからさまに無愛想な顔をする。日本人に対する悪感情を持つらしいアジュマではあったが、この食べ物の名前と、どうやって食べるのかをたずねた。すると、前に並んである中佐名長方形の厚紙を指さし、目も合わさず、めんどくさそうにそれでつまむまねをした。この食べ物の名前が知りたかったので、あえて、私は「イゴンモエヨ」とたずねた。食べ方が分からないのだろうと、うんざりした顔で食べる格好をするアジュマにさらに「モエヨ」と聞く。これは、ホットクというのだそうだが、食べてみるとなんと中にあんのようなものがはいっている。要するにあんパンを上からつぶして焼いたようなものだ。私はこの手の物はあえて買って食べようとは思わないので、次に間違って買うことはないだろう。印象も悪かったし....。
 しばらく屋台の並ぶ道をうろついた。ヤシの実にストローをさしたもの、さらには段ボール箱に犬の子を20匹くらい入れて売っている人もいる。結局、ピカチューの切り絵の本を買っただけで、路地に入っていった。狭い路地にはいると、屋台は少ないがいろいろな娯楽施設がある。韓国では今まで見られなかったパチンコ屋も2軒見つけた。けっこう流行っていたようだ。ゲームセンターや玉突き場、小売店などいろいろある中をかなりの人並みにもまれて進む。
 次にチャガルチ市場に向かう。チャガルチ駅の近くに、デパートみたいな所があったので覗いてみる。デパートの食料品売り場みたいなものだが、日本と違うのは、基本的に完成品は売っていないということだ。キムバプすらない。日本でも10年も前はほとんどそうだったが、料理は原則的に自分で作るという文化が、まだこのような都市でも生きている証拠であろうか。それとも、そのようなたぐいのものは、屋台で手軽に手に入るということだろうか。
 デパートをすり抜けて南浦洞5街にでる。栄進観光ホテル前で、さらに、チャガルチらしいにぎわいが感じられる港前の通りに出てみる。通り沿いの道にさまざまな魚が並べられている。タチウオやタラ、イカなど多種多様だ。水槽もたくさんあって、イシダイやアナゴがたくさんいる。きわめつきは、ケブルと言われる芋虫のお化けのようなヤツ、確か日本の釣具屋で餌として売られているヤツに似ているが、よりでかく色も鮮やかだ。なまこやホヤはまだ何とか食べられるが、こいつは味はともかく、げてもの通の人でも食べるのは視覚的に困難であろう。カニやエビもずらりと並んでいるが、生のままみたいなので、ちょっと持って帰って..と言うわけにはいかない。港側のサイドは、海鮮バーベキューのテントが並んでいて、タチウオを中心にさまざまな魚介類を焼いて食べている。タチウオは網で取ったものらしく、表面はスリスリで痛々しい。私の住む三崎町では、タチウオは一本釣りの顔が写るような銀色に輝くものを食べるのであるが、ここは見かけより量だという雰囲気で、タチウオはずらりと並んでいる。
 ちょっと一人でお食事という雰囲気ではないので、こんどは市場の建物の中へ入ってみる。なんか灯りも煌々とついていて、賑やかだったからだ。入ってみて驚いたのは、ここは市場と言ってもいわゆる魚市場ではなく、巨大ないけす料理屋の集合体である。ずらりと並ぶ魚の板箱や水槽には生きのいい魚介類とセットで二畳ほどのお座敷があって、そこで指定の魚介類を調理してもらって飲み食いするのである。一通り見回って、ここも一人でしんみり飲むにはちょっとまずそうなので、でてさらに通りを東に向かう。ふと観ると市場のはずれには白い丸テーブルと椅子が並んでいて、そこには一人で食事をしている人もいる。このパラソル付きのセットは、韓国ではやたら街角にある。でも何となく雰囲気が暗いのでパス。
 さらに行くと、ちょっと高級目の食堂がいくつかある。カニの専門店にはちょっと触手が動き、入ろうかとも思った。しかし、値段には興味もあるが、海鮮鍋ならほとんど日本と同じだろうということでやめた。魚介類は良い素材ならおおよそ味も推定できるので、良い物を食べ慣れているだけに、わざわざよそで食べようと思わないのである。

   2002' 8/28