五台山へ出発

 朝は早く起きた。いてっ..雪嶽山の上り下りの筋肉痛である。ほとんど体全体が激痛である。とは言っても今日は五台山登山の日である。窓の外を見ると、やっと明るくなり始めた空には重たい雲が漂い、いつ降り出すか分からない状態だ。すぐ出発しよう。6:50分には支度をして、フロントに降りる。ただ荷物は軽い方がいい。本などの登山に必要がないものは、ワールドカップのビニール袋に入れ、フロントに預ける。そしてタクシーを呼んでもらう。ここでもまた、2万wはかかるが本当にいいのかと念を押される。ホテルの前に来たタクシーは、何と日本のRAV4に似た4WDである。そんなに道が悪いところなのだろうか。というより、そんなタクシーがあるのがすごい。タクシーに乗ると、地図を見せ「オディサンカジュセヨ。サンワンシカヨ。」と言って、出発した。
 月精寺に向かう道路沿いには、ぽつりぽつりと土産物屋や旅館がある。そして、月精寺の手前に国立公園入園ゲートがあり、入山料の2800wをタクシーに乗ったままで支払う。メーターを見ると、どうも2万wは月精寺までの料金らしい。月精寺を過ぎてしばらく行くと、道はダートになるが、日本の砂利道とは違い押し固められた土の道である。さらにこの道は水たまりのようなものはなく、どういう重機で作ったのかは分からないが、横ラインの凹凸の道で、水はけは良さそうだが、乗り心地は悪い。ましてやこのタクシーは、4WDのダート走行車であるにもかかわらず、ダンパーがスカスカで、とりわけ乗り心地は悪い。
 7:30、上院寺前バス停留所着。まだ始発バスまでだいぶ時間のあるこの広場には、他には人はいない。登り口の売店が開店の準備をしているだけだ。標高835m。
 バス停の広場から上院寺へは、ブロックタイルの敷かれた道がまっすぐ登っている。すぐに右手に上院寺があるが、雨が降る前に山に登りたいので、そのまま川沿いの林の道をまっすぐ登っていく。やがて川を渡り、左岸(右岸左岸は進行方向に向かい川に対して)を歩くようになるが、ここからはダートになる。登山地図ではずっと右岸を歩くようになっている。このあたりに観光客らしき車が止めてあるので、この道は一般ドライバーでも登ってこれるらしいことがわかる。左にはスジョンアンへの道があるはずだが、ついぞ分岐には出会わなかった。下山路として考えていたのだが、ちょっと不安がよぎる。やがて車道は左岸から右岸へ渡る橋のとこまでで戸切れている。午前8時、標高950m。
 そのまま山道になるが、そこからは川沿いにまっすぐ荷揚げ用のモノレールのレールが走っている。ここから上のサジャアンへ資材を運ぶのであろう。日本でも秋葉神社のバギー、比叡山のキャタビラ車、鞍馬山のモノレールにもがっかりしたが、修行寺といえども人手不足の現代では、このような施設が必要なのだろうか。この車道の終点は一応広くなっているが、重機と一般車が止まっているためにUターンが難しく。中型のトラックが苦労していた。山頂への登り口にはちゃんと道標があるが、もちろんピロボン(毘盧峰:五台山の最高点)以外は何のことか分からない。とりあえずそのジグザグのよく整備された山道を登っていく。
 8:20 サジャアン着。標高1030m。現在改装工事中である。どうもさっきのモノレールは工事のための荷揚げ用であろうか。五台山への登山拠点ともなるこの寺は、重大な観光地なのだろう。形こそ伝統的な仏閣建築だが、ほとんど全てコンクリート建築なのである。日本でも最近そんな寺院が増えてきたが、韓国の寺院は日本と違い極彩色なので、色づけすれば、ほとんど分からないかもしれない。よく見ると一応営業?しているようなので、足場に組まれた歩道を渡り、1階に行く。1階はどうも宿坊になっているらしく、独特の上履きのような派手な靴が多く脱いであり、中にはおこもりという雰囲気のおばあちゃんが数人いた。その奥にトイレがあるが、これが現代的なトイレである。足場に組まれた歩道を通って、こんどは二階に行くと、そこは食堂になっていて、どうも営業もしているようだった。なぜか若い女の子が一人でうろうろしている。韓国の若い女性は、ちょっとおすましだが、ほとんどがいわゆる栗色のさらさら髪で、美しくあることにこだわるそうだ。その子もスタイルも良くおしゃれである。それはいいのだが、こんな山の中ではその格好は浮いてしまう..と私は思う。雪嶽山にも似たような場違いな女がいたが、いったい何を求めて山に来ているのだろう。この時刻にいるのだから、寺に泊まったということだとは思うが..。
 工事中の寺のすぐ上に小さな小屋がある。近づいてみると、瓦や銅板など日本でもおなじみの寄進小屋である。見ると最低のものでも十万wとすごい額である。宗教となるとお金の額はあってないようなものだが、一般の人でもそんな金額を寄進できるのであろうか。感心していると、その小屋の扉にヤマガラが来て、チチュチュピーと愛想をふっている。
 そこからは御影石を敷き詰めた山道(参道)が伸びている。標識にもピロボンとあるので、登っていくが、目の前を老女が登っている。その出で立ちは、下はほとんどヤンキーとび師のもんぺズボン、傘をビニール袋に入れて持ってゾンビのようにゆっくりとした歩調で登っている。老人を敬う儒教の国、韓国である。老女を追い越しながら、「アンニョンハシムニカ」というと、「イェー」と、うつろな声で彼女は返す。しばらく登ると、井戸風の水場があったので、のどを潤す。ちょうどそこに老女が来たので、備えつけの柄杓で水をすくって渡すと、それを持って井戸の後ろの山に撒いた。えっと思ってみているとそれが宗教上の作業らしく、何度も水をくんでは後ろの笹藪に撒いていた。

   2002' 8/27