インドシナ三国の旅 −プロローグ−   

   2011年末〜2012年始、タイを拠点に、ラオス、ミャンマーも巡ってきた。でも、もっと時間がとれれば、マレーシアやカンボジアにも足を伸ばしたかったところである。そんなことのできるのがタイである。また、タイは、他の面でも、外国人旅行者に人気のある国である。その理由の一番は、宿だろうと思う。トイレ温水シャワー付きでも宿の料金が安く(1泊1000円くらいが標準)、その金額で当たり前のようWi-Fiもエアコンもある。さらに安いドミトリー(700円くらい)もあるが、もう無理もできない歳の私は、一般の旅行者が利用する一泊250〜540Bの宿に泊まるようにした。写真は、タイ西部のメーソートとメーサリアンの宿である。どちらも日本のように必要以上の清潔さはないけれども、部屋の前に駐車スペースもあり、広くて利便性も良いのに1泊1000円以下である。大都市になると、宿泊費も跳ね上がるのが一般の国であるが、タイは違います。首都バンコクの中心地にして観光の拠点に「カオサン通り」という利便性最高の安宿街がある。ここの相場がタイ全国の相場になるわけである。安宿街のまわりには食堂や屋台も多く、ふつうに食べれば一食200円くらいでじゅうぶんである。市場やスーパーも多く、食料を買ってくることもできる。さらに、交通の便も良く、料金も安い(日本が高すぎるのでしょうが..)のです。決定的なのは、治安がよいこと、穏和な人々の多い国なので、よほどのことがないかぎり、深刻なトラブルに巻き込まれることがないことである。これでは、外国人旅行者に評判がいいのが、あたりまえであろう。

 今回の私の旅行のテーマは2つあった。一つは大災害後の新興国の様子の視察、そして、陸路でのインドシナの諸国の国境を越境することである。洪水に関しては、日本ではあれほど長引いて混乱している様子を大騒ぎでさんざん流していたのだが、外見上は意識してみなければ分からないほどの復興で落ち着いていた。そもそも、タイの川や地形を見る限り、この年ほどの規模ではないにしろ、高低差の少ないタイ中部を流れるチャオプラヤ川流域の洪水は毎年のようにあるのではないかと思った。特に、はよくあることで、今回は日本の企業が大きな被害をこうむったという点では気の毒というほかない。 復興も水さえ引けば復興も手慣れたもののようである。痛々しかったのはアユタヤの日本人村に植えた、日本趣味で造った庭園の木々の惨状(左の写真)くらいであった。数ヶ月の浸水でも耐えることのできない樹木は、考えて植える必要があるのだろう。

 タイに限らず、電柱が折れんばかりにのたうち回る電線の束(右写真:CATVが多いのだと思うが)は、新興国の勢いの象徴である。昨年、私は電気工事士の資格を取ったので、ついつい配電設備に目が向いてしまう。どうも洪水によって最も深刻な被害を受けたのは、電気インフラのようでもある。地下の配線や、低い位置にある配電盤やコンセントは泥まみれで、停電や感電などいろいろなトラブルがかなりの間、市民や企業を苦しめたと思われる。何ヶ月も水に浸かると、電気を供給しようにも危険でできなかっただろうから、夜はさぞ神秘な昔の闇の世界になっただろう。
 
 さて、実はタイの旅行で最も困ったのは言葉である。あのどこから取りかかったらいいのか分からないタイ文字は、初めからマスターすることなどあきらめていたが、旅行大国と言うくらいだから、英語併記が当たり前だろうとたかをくくっていた。ところが、バンコクをちょっと離れると、文字だけでなく単位や数字までも暗号のようなタイ語だらけ(観光地などにはまれに英語が併記してある)なのである。
 紙幣(右写真)も片側はタイ語で金額が表記してあるので、いちいち確かめなければならない。そういえば、1000B札(写真一番上)は、日本円で3000円ほどの金額だから使いやすいはずなのだが、日常的にはまず使わない。会計で出すと、露骨に面倒そうな顔をする人も多く、トラブルのもとになるので、500Bが一般的に使う高額紙幣ということになり、換金所でもそのような配慮をしてくれるようである。ただ、一般のタイ人は、手渡すときに抜いたり、ズルをしたりすることもないので、トラブルはなかった。今までも、サンプルとして旅行で行く国の通貨は手に入る全種類持って帰ることにしているが、3国の多様な紙幣の整理は、文字が読めないだけにたいへんであった。
 バイクツアーでも、走りながら文字を読み取ることは、ほぼ不可能なので、いちいち停まって確認する必要があった。今回のような広いエリアの旅行では地図が大切だが、よい地図の入手は思うようにはいかなかった。私がポイントをつかんでないためか、適度な本屋や観光案内所を見つけることがなかなかできなかった。

 最初の計画では、バンコク周辺でバイクをレンタルして、すべてをバイクツアーにしようと思っていた。右側通行の国で、国際免許も使えるからである。大都市というのは利便性は高く娯楽も多いが、その国の実感は偏ったものになりかねない。それで、前回のインドネシアから左通行の国ではレンタルバイクを借りることにした。そうすると、全く違った世界が広がってくる。これで、ポイント旅行から、線や面での旅行ができる。日本より広い国土に人口は日本の半分であるタイの国土は、ポツポツと集落が点在するというのが本当の顔のようであるから、さらにバイクでの旅行は有効であろう。
 さすがにレンタカーは加害者になるリスクが高いので、小回りのきくバイクの方がいい。東南アジアは、おおよそ100〜125ccの小回りのきくカブ風バイクがほとんどである。私もそんなバイクを日常の足としているので、感覚的にも違和感はない。日本のような複雑な交通ルールもないし、ほとんどが実用的な運転をするので、割り込みや逆行などが多くとも、むしろ日本よりは運転しやすいくらいである。
 タイは、洪水による道路状態の悪化が心配ではあったが、それでこそ洪水被害の実態がよく分かり、時間の無駄も少ないと思ったわけである。しかし、思ったより広いタイの国土と、ほとんどバイクでの国境出入りが難しいことがわかり、結果としては、夜行列車を使った3拠点の三国ツアーになった。
 さて、旅行前に最も心配したことの一つは、バイクが借りれるかということであった。ネットで見た限り、パタヤ、アユタヤやチェンマイなどの観光地では、パスポートと交換で借りられるレンタルバイクがあるようだった。しかし、バンコクではそのような記述はなく、とりあえず行ってみて考えようということにした。結果として、日本語の通じるカオサンの旅行社で相談してみると、危険なことととんでもない値段になるということでバンコクではパスすることにした。そして、アユタヤとチェンマイででレンタルバイク(タイではレンタルモータサイ)を借りた。写真左がアユタヤで借りたホンダのクリック、中がチェンマイで最初に借りて1日乗り、ブレーキのクレームで取り替えたホンダ・ウェーブ110、右がタイ西部を4日間巡ったウェーブ100である。東南アジアで一般的な100〜125ccカブスタイルバイクだが、ウェーブは懐かしいカブギアチェンンジである。観光地には結構レンタバイク屋があり、借りるのは難しくないが、パスポートを預けるのはちょっと抵抗がある。


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