飛仙台とシマリス

 地図によると沢を渡って神興寺で左右に分かれるはずなのだが、沢を渡る前から道は三つに分かれ、橋も三つある。権金城へのケーブルへと行かないようにできるだけ右の道を歩いていたが、ちょっと不安になり真ん中の橋を渡る。沢を渡ると左の方に向かうことにする。途中道標もあるが、ハングル名がたくさん書かれていてよく分からない。西洋人も多く、森林の中の散歩をしているようである。まさに上高地から梓川沿いに歩いているみたいだ。道も広く、時折車も走っている。道沿いにはいろいろな自然観察用の表示板や説明版があるが、残念ながらハングルが読めないので、ほとんど見ていない。道端のトイレも石造りできれいだ。やがて沢に出て、そこからは完全な山道になり、やっと高度が上がりだした。
 すれ違う人は愛想がない。日本の登山道にはよくあるリボンやテープの目印もほとんどないといって良い。やがて、沢の上に断崖が見えだした。登っていて右岸から左岸に渡り(端は全て丈夫な鉄橋)、ちょっとわかりにくい道を少し登ると、上に土産物屋が見えてきた。どうもこの道は、その店内に入っていくようになっている。間違ったかなと思ったが、途中に分岐表示があった記憶もないので、そのまま進む。土産物屋と食堂の間(アーケードになっている)を通る。これらの店もまだ目覚めたばかりという雰囲気である。そこを出たところに、大きな一枚岩があり、その上から対岸を見る。対岸は天を突くような岩峰が対岸にニョキニョキと生えている。ここがピソンテ(飛仙台)であるらしい。麻姑仙という仙人が昇天した所という意味である。その300mほど下にもソワンテ(臥仙台)という大岩があるらしいがあまり印象に残っていない。どこでも同じであるが、これらの大岩の麓には自分の名前を掘っている輩がいる。
 鉄橋を渡って右岸に渡ると、管理棟らしき建物がある。このあたりは有名なロッククライミングの岩場であるらしい。そのすぐ上にフェンスがあって、鍵のかかる鉄扉をぬけて登山路は続く。ここから登山規制があるらしい。そこが世尊峰への分岐でもあり、クンガングルという洞窟まで0.6kmとの表示がある。その先で休憩とする。束草で2つ買っていたチョコパイを1つ食べることとした。でも韓国のチョコパイはチョコレートの層が薄く、もうほとんどぼろぼろになっている。中は餅みたいなものが入っているようだ。映画JSAの有名なシーンで、「北朝鮮がこれよりおいしいチョコパイを作るまで我慢して食べてやる!」と北朝鮮兵が言うが、何のことはない材料さえ手に入れば、この程度ならすぐにその夢は実現するだろう。
 ぼろぼろとこぼしながら、チョコパイを食べて座って休んでいると、「来た、来た」。日本人の登山客が韓国の山で最も印象に残るヤツだ。それは、人慣れしたシマリスである。私もシマリスを見たことがないわけではない。昨年も北海道の幌尻岳の山頂を走っているシマリスを撮影している。けれども、日本全国的に見ればニホンカモシカなみの稀少動物である。ところが韓国のシマリスは、人間の音に寄ってきて足元で餌を求めて走り回るばかりか、小屋の中にも入って来るというしたたかさである。私が座ってチョコパイを食べていると1分もすればシマリスが出現した。しばらくは一応警戒しているが、そのうち足元に寄ってくる。自分がかわいいのを知っているかのように直立に立って、いかにも餌をねだるかのような行動もしてくる。そして食べ落としたお菓子のくずを拾うと表情豊かに食べている。野生動物に餌をやるのは悪いことだが、こいつは餌をやらなくても、少しの食べ物のくずも見逃さない。
 10:18、鬼面岩(クイミョナン)の乗越を通過。ここは切り立った数百mの崖の尾根がせり出したところで、その尾根の鞍部をまたぐように登山道はついている。どれが鬼の顔なのかはちょっと分からなかった。というよりハングルのクイミョナンが何を意味するのかがその時は分からなかった。
 この辺から岩場の連続で、時々あった鉄ばしごは、ほとんど連続的につくようになってくる。日本と違って、手すりのついた、人が十分すれちがえる幅のある本格的な鉄ばしごががっちりと設置されていて、多くは朱色に塗られている。この朱色はよく目立ち、防災や紅葉時の観光にはいい色なのだろう。自然の中に無理矢理作ったものとしてはカラフルである。赤は緑の補色なので、そんなに違和感はないが...。またこの辺には、床が滑り防止に横に溝を切った木材で、色も焦げ茶色の鉄ばしごもある。どうも、新しくかけ直されたり設置された鉄ばしごはこのようになっているようだ。

   2002' 8/25