ゆ る す ま 谷

 昔、松にゆるすま谷というところがあった。そこであった話だそうです。

ある日、りょうさんと、ごんさんという男が、ゆるすま谷にはぜ取りに行った。はぜの実はろうそくの原料になる。木に登ってその実を採るのである。

そこに、親方が通りがかった。
「あのやろうに、この木の上から、しょんべんをひっかけてやろう。」
と、ごんさんが言った。そして冗談かと思ったが本当にしょんべんをかけてしまったのである。
 親方はそれがしょんべんだとわかると真っ赤になって怒り、
「おー、ぬくい雨が降ってきたと思ったらお前らか。おりてこい。」
と叫んだ。するとごんさんは、 「私は、木からおりてしょんべんなどしおったら時間がないから、ここからしただけで、親方がおったとは知りませんでした。もう、親方にこんな失礼なことをして、生きていられません。飛び降りて死にます。」
と言って、飛び降りようと片足をあげ両手を広げて飛び降りるまねしました。
 実ははぜを取るときはロ−プを体にまいて落ちないようにしているので、こんなことをしても何ともない。

それを見た親方は、さすがにこんなことで死なれたら困るので
「あー、ごんさん。わしはなんとも思っとらん。じゃけん死ぬのだけわやめてくれ。」
と叫びましたが、ごんさんは
「いいえ、こんなことをしては生きておられません。」
と言って飛び降りようとします。

困った親方は
「お−い、りょうさんなんとかしてくれ。」
とりょうさんに頼みました。するとりょうさんは
「まあ無理だな。ごんは思ったらなんでもする男やけん。でも...ひょっとして酒一本持ってくりゃ分からんがな。」
と言った。親方はしかたなく
「一本でも二本でももってくるから。ごんさん死なないでくれよ。」
と言って急いでうちまでお酒を取りに帰ったのだそうだ。

 親方はしょんべんをかけられた上に、酒を何本も飲まれて大変損をし、一方二人は酒を飲みながらにっこりと笑ったということです。


  出典:二名津中学校「郷土の昔話」・・・平成2年度 大垣春子(松77歳)伝,編集:ジョ−ダン(5205)