私にとっての外国旅行         2012.02.10

 旅行で何を求めるかは、人それぞれでしょう。今までの経験上から私が思うのは、他人が計画した旅行で得るものは、そこへ行って○○を見たという経験に毛が生えた程度です。運良く事件やトラブルが発生したために、意外な思い出ができるような場合もあるかもしれませんが。旅行先で、ここはもう少しじっくりいたかったとか、ここでいるのは時間の無駄だとか思うことが多くあると思います。それが自分の本当の旅の始まりです。一度自分で悩み抜いて旅程を作り上げた経験のある人なら同意見だと思います。私の若いときの旅行は、ほとんどが単独での山歩きのための旅でした。日本の山奥の山小屋は、避難小屋役割も持つため、法的に来訪者を決して断われません。私は、そのような山小屋をつかう体力や天候等で旅程を大きく変更するような旅に慣れてしまっているために、ろくにそう思うのかも知れません。韓国の智異山山頂小屋で宿泊を断られて、夕闇迫る下山路を走り下ったときには、日本の山小屋の暖かさを思い知ったものでした。
 私の海外旅行最初の国は韓国でした。その韓国の都市から田舎町を旅しての経験では、ある程度の人家があれば、必ず手頃な宿があり、飛び込みでも宿がとれないことはまずないということです。今までに事前に予約をしていった宿泊地は二度。一番最初の韓国の第一日目、ソウルの宿と、運転免許取得のために宿泊証明をきちんと書いてくれる宿が必要なために依頼したバリジンンバランの第一日目の宿だけです。むしろ、宿を予約していることで、旅程が時間的制限を受けることの方が、私の旅行にとっては問題なのです。

 海外旅行では一番不安なのは、外国語によるコミュニケーションではないでしょうか。ところがこれも、結果からいえば、時間と金額を伝えることができれば、とりあえず問題はありませんでした。私も韓国旅行を企画したときには、さすがに不安であり、またある程度の会話ができないでは、その国に失礼であるとの考えがあり、事前に2年間、韓国語と韓国の歴史や文化に関する学習をしました。それはそれで役に立ちましたが、実際の会話は早くて聞き取りにくく、ほとんどが、「オルマエヨ」と「○○カヨ」と時間のメモで事足りたのです。他の国でも「How Much?」と「What Time?」と整理されたメモが書ければ、あとは地図と旅行案内本1冊、そしてジェスチャーで基本的に何とかなりました。相互の立っている状況を考えれば、おおよそ伝えたいことは、互いに予想できるからです。海外旅行本にはだまされた日本人の例が山のように載っていますが、それは「高額もって物見遊山or暇つぶしに来ました」がミエミエの観光客がほとんどで、真面目に旅をしている人が誠実に対応していれば、日本以上にアジア人は良い人になってくれます。
 特に日本とお金の価値の違いが大きい東南アジアでは、日本人観光客がよく行くところは要注意です。一般的に日本人はぼられます。一般的な物の価格は原価の数割のもうけを上乗せされて金額が決められてあります。しかし、聞くところによると、多くの金額交渉では、欧米人や韓国・中国人なら3倍、日本人だと分かると何と5倍もの金額をふっかけられるそうです。それにはもちろん理由があります。このところ円高が続いていて、たとえ5倍のふっかけ価格でも明らかに日本よりも安いのです。それでちょっと高いかなと思っても、安直に大判ぶるまいで払ってしまう日本人観光客が、結構いるのでしょう。それを聞けば、生きていく知恵として、だめもとでふっかけるようになります。でもそれは、どちらの国の人にとっても問題があります。だから、早くその国の物価を把握しましょう。そして、安いという表情は禁物です。きっちりと現地の価格で交渉して取引しましょう。それも文化交流なのです。
 旅行の足は、公共輸送機関が一般的です。アジアには、バスやタクシーの他にもそれぞれの国に特有の味わい深い旅客交通機関があります。しかし、低額のバスなどとちがって、日本人と見るやこれもとんでもない金額を言い出す商売人がいます。これも、料金が折り合わない場合は遠慮なく断りましょう。ガイド本には、そういった乗り物の悪評ばかりが載っています。目先の利益でぼると、結局利用者が減るというしっぺ返しがあることを、きっちりと教えてあげましょう。

 私は、2010年のバリ旅行から、車が左側通行の場合、レンタルバイクを利用することにしています。これで、旅行のエリアがぐんと広がるし、時間の管理がしやすいからです。ただ、これは、日常的にバイクに乗っていない人には危険です。アジアのバイクは、ほとんどが100〜125ccで、私のように熟年の者でも同じくらいの排気量のバイクだから困らないのです。ただ、日本のような平和な運転は期待できません。規制がゆるいので、割り込み、逆走、信号無視、突然の落下物の減速などどんなことでもあり得ると思って、中途半端な運転はしないようにしましょう。このように大変なようですが、コースさえ分かれば、むしろ日本よりも安全で載りやすいのが不思議です。それは、日本のように悪質な幅寄せ、急な追い越し、嫌がらせ、ストレスフルな運転が他のアジア国では極端に少ないからだと私には感じられます。ただ、事故などがあると、かなり面倒なことになりそうなので、体の露出しているバイクに乗ることは、命をかけていることを忘れないようにします。また、加害者になる可能性の多い自動車にはよほど条件がそろわない限り乗る気はありません。

 さて、外国は一般的に情報不足なので、現地での細かい会話が成り立たないということは、先が読めないこともあり、すさまじくストレスフルな旅行になります。高級ホテル泊でツアー旅行をするのであれば、気楽でいいのでしょうが、所詮、業者がイメージした見せたいものを見せる、期待していると思われるものを用意される経験で、それは、冒頭にも書いたように時間の無駄遣いだと思われます。教育に携わるという職業柄、その国の本当の姿、そして未来の姿が展望できるような体験や知識が得られる旅こそが求める旅行だと私は思います。
 さらに、近年よくいわれる問題解決の能力、場所に応じた危機管理能力は、いやが追うにも私流の旅行では高められます。そのためか、帰国後は、例外なく日本の日常生活が、とんでもなく平和にそしてのどかに思えます。日本は多くの外国人から人間のガラパゴスだといわれます。ほとんど努力しなくても得られると思っている平和、戦後の混乱期に運良く蓄積できた経済力、政治が空転していても生存権が脅かされることもないという不思議な国です。このような国にどっぷり浸かっていると、世界中の混乱が映画の中の世界のようにすら感じます。そんな堕落した私に何とか現実の厳しさを教えてくれたのが、若いときは自然の厳しさでした。今でも冬の単独高山山行の厳しさに比べたら実生活の苦労など楽なものです。そして今では、忘れかけていた生きるための一本の筋がピン張り直してくれるのが、アジア旅行です。(欧米の観光旅行は、お金を貰っても生きたくはありませんが...。)しかし、歳をくって対応能力が低下しているせいか、旅行前は正直なところ、もうすでにストレスで押しつぶされそうになっています。忙しくて海外旅行に行けない年は、ホッとするのですが、何か後ろめたい気もします。甘い環境にはなじむと抜け出しづらいというのが、人間の性なのでしょう。
 できれば旅行の準備は、計画段階からしっかり資料を作り、地図なども使いやすいように加工して持って行きたいものです。最低限でもポートフォリオを準備して、ある程度の資料集めはしています。しかし、これも歳と共にいい加減になりつつあります。最近は、仕事の手際も悪くなり、出発直前まで手がつけられないことも多くなってきました。帰ってから資料や写真を整理して、仕事に活用はしていますが、HPの更新などは、ついつい後回しで、そのうち次の旅行の準備の時期が来て、処理できない資料の束が増えていくのが、旅行の最大の悩みです。