南原にて 

 9時42分、南原のバスターミナル(右の写真)に着く。南原では、食事と春香伝ゆかりの美観地区である広寒桜苑を散策するつもりだ。食事はチュオタン(ドジョウ汁)を食べたことがなかったので、有名なセジブチュオタンという店にいくことにする。まずは腹ごしらえである。バスターミナルは食堂の2kmほど北にあるので、歩いていくことにする。しかし今日はよい天気で、もうかなり暑い。まずは、忠貞路を南下しヨ川河畔を目指す。ミッキーマウスの保育園の前を通り、堤防沿いの道に出る。道路は人通りも少なく、唐辛子が干してあったり、堤防の大きな木の下では老人が集っていたりして、平和な田舎町の風情である。大きなホテルは対岸にあって、下流のスンサ橋のところに堰をつくってできた広い川で晋州と同様に足こぎ白鳥船がたくさん周遊している。そのまま広寒桜苑の前を通り、スンサ橋のところで堤防に上がってさらに下流に少し歩く。
 するとガイドの写真とはちょっと違ったセジブと書いてある土壁の倉庫の集まりのような建築物(写真左)があった。一応「セチブチュオタン」の看板もあるが、ちょっと見ただけでは食堂には見えない。
 入口のようなところに入っていくと、確かに広い部屋があって食堂のようである。奥に入れと言われ、大部屋に上がり込んでしばらく待つと、注文を取りに来た。7000Wのチュオタンとメクチュを頼む。しばらくするとぐつぐつと煮立った煮物と8種のミッパンチャン(写真上)がでてきた。
 まあ、こんなものか..と、手をつけようと思うと、なんとふつうはテーブルごとに置かれているスッカラとチョッカラがないではないか。声を出そうと思ってやめた。こういうとき外国人に対してどう対応するかみてみようと思ったのである。食べられないので、ビールをチョビチョビやりながら、この料理の写真を撮ったり、メモ帳を出して行程のメモを確認したりした。
 十分くらいたったか、若い男の店員が急いでやってきた。そして、大変申し訳なさそうに謝り、すぐにチョッカラとスッカラをもってきて、さらにチュオタンも温め直してくれたのだ。どうもはじめは、食事に箸を付けない怪訝な客を観察していたに違いない。そのうちメモをとったり写真を撮ったりしているので、店の取材だと思ったようである。そうなると、観光地の食堂の対応はシビアである。ネット社会の韓国では宣伝効果が如実に表れるのであろう。店主のご挨拶とビールのサービスが出た五色温泉の食堂が思い起こされる。この食堂では不備があったという引け目があるのでさらにすごかった。
 男は、温め直したチュオタンを持ってくると、私の前にどんと座り、料理の説明をし出したのだ。私もいい機会なのでいろいろ聞き返した。韓国語がそのまま通じないので、男は汗だくになって必死で説明(弁明?)している。それだけではなかった。男は厨房に戻ると、今度は皿にのせた一品料理をサービスだと行って持ってきた。昨夜名物だと言って出されたドングリの豆腐短冊切り(写真左下)である。どうも見た目が血の固まりのようで味もよいとはいえない。それだけでは終わらなかった。彼は再び戻り、南原の観光案内地図と小冊子の他に、これもサービスだと小魚の天ぷら(写真右下)をもってきた。なんとそれはそれはシソに巻かれたドジョウの天ぷらだったのだ。チュオタンのドジョウはミンチになっているので、ドジョウの姿は拝めない。しかし、この天ぷらはいかにもドジョウを食べているという感じだ。ヌメリもなく味もよい。マシッソヨと喜んで見せたら、彼の顔にも初めて安堵の笑顔が見られた。チュオタンはメウンタンと並んで魚の臭みを消すために激辛になっていることが多い。しかし、ここのチュオタンはそんなに辛いという印象はなかった。
 さらにご飯のお代わりやスープのお代わりまで出されおなかはいっぱいになった。彼は私が旅行なのか仕事なのか聞いてくるがわからないふりをする。彼は、青菜?のキムチを指さして、これはSARSに効くので中国や日本にも輸出しているそうだ。ノビル?のキムチは頭にいいそうだ。この店はKBSでも紹介された、といったことをいろいろ聞かされた。最後に出されたコーヒーを飲みながら、一応天ぷらの代金も聞いてみたが、サービスなのでいらないという。そして丁寧に送り出されて店を出たのであった。
 店を出て堤防に登り、河川敷を見ると、写真のように堤防の斜面にホバッなどが植えられており、乗れに埋まって除草作業をするアジュマが見える。その向こうには包みの下流で、水に入り短い竿を持って何かを釣っているランニング姿の少年がいる。対岸の山の中腹には国楽院の伝統家屋が見える。ずっと向こうに高層アパート群が見えなければ、よい風景なのだが。

   2003 08/15