漢拏山登山1

 登山口の積雪は30cm程度だが、毎日結構な数の人が登っているらしく、圧雪になっていて歩きやすい。道の幅も広く、雪の下でわかりにくいが、ぬかるんだところには横板がずらりと敷いてあるようだ。また、分かれ道自体ないようだし、数百mおきに写真のような現在位置の分かる案内板がある。おまけに道の両横には頂上まで縄や柵があって、これで迷うことはまず考えられない。時々、木の枝にテープが結んであるが、これもよほどの豪雪でもない限り必要もないだろうし、この程度の天気で登山道解放時刻が変更になるくらいだから、豪雪の場合登山禁止になるのかもしれない。
 登山者は、一本しかない登山道をぐんぐん頂上を目指して歩いていく。雪におおわれた林と時折見える小鳥やの風情も楽しい。しかし、登山者はそんなものにも目もくれず、ぐんぐん登っていく人がほとんどであり、私を抜いていく。9時が登山開始終了時間なので、やがてそんな人もいなくなるだろうが..。中には運動靴だけ(軽アイゼンはしている)など、軽装のものも目立ってきた。山に登るのに遅く来てあわてて登る人とほど、軽装で不用心なのは日本でも同じだ。2.1km地点からそれまで低木だった下草が、クマザサに変わる。
 十時前には、最初の休憩地?のトイレに着く。ここは登山道の4.1km地点で、男女兼用のきれいなトイレが2棟(4室)建っている。太陽光利用の浄化システムのきれいなトイレで、その前は広場になっている。ただ、まわりは林なので、見晴らしは良いとはいえない。
 10時6分中間地点を通過。このころから風が弱い(済州は風の島とも聞いていたが..)ためか、雪質のためか、木の枝に着いた雪は白い花が咲いたようにそのまま残っている。常緑の杉にも雪が着いて、おもしろい景色になりだした。そんな時、急いで私の横をすり抜けたアジョシがいた。装備はきちんとしていたが、ただ遅い出発のためかひどく焦っていて、悲壮感さえ漂っている。私の方にぶつかった彼は「すみません」と言った。日本人であるらしい。たぶん、せっかくここまで来て、登頂の時間制限があるので焦っているのであろう。
 私はこの時点(どうも白鹿譚:行程9.6kmが山頂らしいと思ってきたので..)では、このスピードで登頂は可能性が少ないと思い始めていた。私は山登りに関してピークハンターではない。山歩きは、その過程こそが山歩きのすばらしさである。いろいろ無茶もした若いときの失敗の経験から、山では体力面でも精神面でも自分のペースを崩すことは自己につながることを身にしみて知っている。特に冬の単独登山では、ちょっとしたミスが多くの人に迷惑をかけ、高い確率で命に関わることもあるのである。山に登るには、自分の今の体力と精神力をきちんと把握し、常に余裕を持っている必要がある。  左手後方にそびえていたオルムの頂上(1215m)が、自分の目線の下になる(午前十時半)頃、サラ岳避難小屋に到着した。この小屋は、林の中にあって見晴らしこそ良くないが、溶岩を敷き詰めた壁のがっちりした作りである。職員が常駐しているらしく、窓から無線で連絡を取る人の姿が見られた。隣には元の避難小屋らしきモルタルの地味な小屋跡?もある。トイレは小屋の前にある。

  H14.12.27-2